松井一郎大阪府知事と橋下徹大阪市長は、大坂人権博物館(通称リバティおおさか)の補助金を打ち切るとともに、大坂国際平和センター(通称ピースおおさか)の展示の見直しを進め、また両施設を統合して、新たな近現代に関する教育施設を設置する構想を打ち出しました。
これに対して本会は、7月31日の常任委員会での審議を経て、8月10日付けで「大阪人権博物館及び大阪国際平和センターの維持を求める要望書」を松井一郎大阪府知事と橋下徹大阪市長に送付しました。以下その全文です。
2012年(平成24)8月10日
大阪府知事 松井一郎 様
大阪市長 橋下 徹 様
地方史研究協議会
会長 松尾 美恵子
大阪人権博物館及び大阪国際平和センターの維持を求める要望書
私ども地方史研究協議会は、1950年(昭和25)の創立以来、地方史・地域史研究の推進を目的に活動している会員約1,500人を擁する全国学会です。
本会は、これまで歴史資料や文化財の保存をはじめとして、地方史・地域史研究にとってより良い環境をつくるための運動を展開してきました。なかでも地域の歴史を伝える資料の保存とその活用に関しては、重要な運動のひとつと位置付けており、積極的な取り組みを進めております。
さて、このたび大阪市が大阪人権博物館(通称リバティおおさか、以下通称を用いる)について廃止に向けて検討する方針を示し、今年度7月末で補助金を打ち切ること、そして大阪府もこれに追随するとの報に接しました。さらに、大阪国際平和センター(通称ピースおおさか、以下通称を用いる)についても、展示の見直しを進める一方で両施設を統合し、「両論併記」で学ぶ新たな近現代史に関する教育施設(以下、「近現代史の教育のための施設」とする)を設置する構想が打ち出されたことも知りました。
リバティおおさかは1985年(昭和60)に設立された、日本最初の差別・人権に関する総合博物館であり、長年にわたり、近世以来の大阪府下の被差別部落問題をはじめ、様々な人権問題に関する調査・研究と地域資料の収集・保存活動を行い、展示を通して府民及び市民にその歴史を伝え、解決を訴えてきた施設です。また、ピースおおさかは、大阪空襲を体験した府民及び市民の強い要望によって設立された、国内外の平和に関する情報の収集・提供や調査・研究等の事業を行う総合的な機能を持つ施設であり、大阪空襲をはじめとする戦争体験者の証言記録や資料の収集において大きな成果をあげていることは、諸種の刊行物や展示を通して広く国内外に知られています。両施設ともに国際的視野を持ちつつも、大阪という地域に根ざして資料や証言を収集し、その歴史を後世に伝えることを目的とし、実際にその役割を果たしており、他に代替することができない施設であることは明らかです。
本会では、リバティおおさかとピースおおさかの統合、および政治主導による展示をめざす「近現代史の教育のための施設」の設立が、地域における戦争や差別の歴史を後世に伝えていくことに大きな支障をもたらし、さらには両施設がこれまで収集・保存してきた証言記録や、府民及び市民から寄贈された多くの貴重な資料がおろそかにされ、証言や資料に託した地域の人々の「想い」が傷つけられることを危惧しております。そこで本会では次のことを、大阪府と大阪市に要望いたします。
リバティおおさかとピースおおさかの設置理念を尊重すること。さらに両施設がこれ
まで地域に果たしてきた関係資料の収集・保存・展示・調査・研究といった博物館機
能や役割を継続するために必要な措置をとること。
以上、本会では大阪府と大阪市が進めようとしているリバティおおさかとピースおおさかの統合構想を撤回し、両施設の本来の機能が維持されることを強く要望いたします。