東京都北区指定有形民俗文化財「十条冨士塚」の保全を求める要望書の提出について

地方史研究協議会は、東京都北区指定有形民俗文化財「十条冨士塚」の保全を求める要望書を、2010年9月17日付けで、石原慎太郎東京都知事、花川與惣太東京都北区長、伊与部輝雄東京都北区教育長に対し、会長名をもって提出し、また、関係各方面および報道機関に宛てて要望書の内容を送付いたしました。
この問題は、都市計画道路の幅員拡張によって、貴重な有形民俗文化財である、北区中十条に所在する「十条冨士塚」が、毀損する可能性が高くなったということに端を発しています。
本会は、文化財保護の推進を求めていくという立場から、この計画を見直し、迂回ルートの設定などの再検討を行なうことを、東京都および東京都北区に対して要望しております。
以下は要望書の全文です。

 

2010(平成22)年9月16日

 

東京都知事    石原慎太郎 様
東京都北区長   花川與惣太 様
東京都北区教育長 伊与部輝雄 様

地方史研究協議会

会長 竹 内  誠

 

東京都北区指定有形民俗文化財「十条冨士塚」の保全を求める要望書

 

 

私ども地方史研究協議会は、1950(昭和25)年の創立以来、地方史・地域史研究の推進を目的に活動している会員約1500人を擁する全国学会です。
本会は、これまで史料や文化財の保存をはじめとして、地方史・地域史研究にとってより良い環境をつくるための運動を展開してきました。なかでも地域に残る歴史資料の保存とその活用に関しては、重要な運動のひとつと位置付けており、積極的な取り組みを進めております。
さて、このほど東京都北区中十条三丁目に所在する「十条冨士塚」が、東京都と北区がすすめる都市計画道路(補助八三号線)整備事業及び区画整理事業の対象地域となることを知りました。この道路は王子-赤羽間の旧日光御成道にあたり、その道筋に隣接している「十条冨士塚」が、幅員の拡張によって大きく損なわれてしまうという計画が立てられ、これが実施の段階へと移されようとしております。本会では、その計画に対して以下の点から強い危惧を抱いております。
「十条冨士塚」は、江戸時代に十条地域で組織された富士講「丸参十条伊藤講」が、遥拝を目的に築造した人造富士山です。その成立は、江戸時代後期であったと考えられており、1843(天保14)年以前に作成された『日光山道中図絵』(日光東照宮所蔵)の中にも富士山を表わす三峯型をした塚として描かれています。また、その歴史性に加え、成立時の旧態がよく保たれているということから、資料的価値が極めて高く、多くの研究者が注目をしております。
加えて、現在も当富士塚を築造した丸参十条伊藤講がその活動を継続しており、富士山のお山開きに際しては、毎年6月30日・7月1日の両日にここで例大祭が行なわれ、区内外からの多くの人出で賑わうなど、「十条冨士塚」を中心とする貴重な有形・無形の民俗文化財が保護・継承されている事例として全国的にも広く認知されております。さらにその学術的評価は、1991(平成3年)11月11日に東京都北区指定の有形民俗文化財となったことで証明されたものと考えます。
なお、昨今の文化財保存行政について目をむければ、国が歴史文化基本構想を策定し、地域の文化財をその周辺環境も含め、総合的に保存・活用するという方向性が示されており、近い将来、全国各地で文化財の保存・活用が強化されていくことが予想されています。「十条冨士塚」は、長年にわたり地域住民から「お富士さん」として親しまれ、例大祭やイベントなどを通じて地域のシンボルともなっており、今後、地域を基盤として進められる文化財の保存・活用の取組みを既に実行している先駆的なものといえましょう。
このような重要かつ指定を受けた民俗文化財が、今回の道路整備事業及び区画整理計画によって、その資料的価値を大きく損なう事態となれば、今日まで積極的に進められてきた文化財の登録・指定制度の役割とその意義が問われることになるものと考えます。今回の問題は、これからの文化財行政のあり方に逆行しているということばかりではなく、貴重な国民の財産である文化財の保護・活用を行ない、国民の文化的向上に資することを目的に定められた文化財保護法の精神に反する行為となりかねません。
本会は、全国各地域に所在する歴史資料や文化財の保存とその活用を図るという観点から、次のことを要望いたします。
①「十条富士塚」の上を通過する都市計画道路(補助八三号線)整備事業及び区画整理  事業における計画ルートについて、富士塚を迂回するなどの措置をとり、文化財の確実  な保全を図ること。

②今後の保存・活用の在り方については、広く外部の研究者・団体などによる評価を考  慮し、また、都・区の文化財保護審議会などを通じて、内外の有識者の声を聞きながら  適切な方向性を探ること。
以上の点をふまえ、このたび東京都・北区が進めようとしている都市計画道路(補助八三号線)整備事業及び区画整理事業について、その一部を変更し、計画線上にある北区指定有形民俗文化財「十条冨士塚」の保全を図ることを強く要望いたします。都・区として責任ある対応をしていただくことを切に希望いたします。