地方分権改革推進委員会の第3次勧告における博物館法見直し勧告を受け入れないよう求める要望書

本会では、二〇〇九(平成二一)年一二月五日付けで、会長名をもって、内閣総理大臣  鳩山由紀夫、内閣府地方分権改革推進委員会委員長丹羽宇一郎、総務大臣原口一博、文部科学大臣川端達夫、文化庁長官玉井日出夫に宛て、「地方分権改革推進委員会の第3次勧告における博物館法見直し勧告を受け入れないよう求める要望書」を送付しました。

これは、二〇〇九年一〇月七日に出された、地方分権改革推進委員会第三次勧告のなかに、博物館法第一二条の第一項から第三項を廃止または条例委任が盛り込まれたことへの対応です。博物館法の第一二条は、登録博物館の審査要件を示したもので、第一項には必要な博物館資料があること、第二項には必要な学芸員等の職員がいること、第三項には必要な建物及び土地があることが記されています。
今回の勧告の通りに審査用件が廃止または条件委任されることになれば、地方史研究・地方史研究を支える博物館の継続的な活動を損なうおそれが生じる可能性があります。よって、本会では当要望書を作成し、一二月五日に行われた常任委員会での審議を経た後に、これを送付いたしました。以下その全文です(本文は横書き)。

 

2009(平成21)年12月5日

 

内閣総理大臣   鳩山 由紀夫 殿

内閣府地方分権改革推進委員会委員長
丹羽 宇一郎 殿

総務大臣     原口 一博  殿

文部科学大臣   川端 達夫   殿
文化庁長官    玉井 日出夫 殿

地方史研究協議会

会長 竹 内  誠

 

地方分権改革推進委員会の第3次勧告における
博物館法見直し勧告を受け入れないよう求める要望書

 

私ども地方史研究協議会は、1950(昭和25)年の創立以来、地方史・地域史研究の推進を目的に活動している、会員約1500人を擁する全国学会です。

本会は、これまで文化財の保存をはじめとして、地方史・地域史研究にとってより良い環境をつくるための運動を展開してきました。なかでも地域に残る古文書や公文書、歴史資料の保存とその活用に関しては、重要な運動のひとつと位置付けており、積極的な取り組みを進めております。

さて、このほど地方分権改革推進委員会による第3次勧告がなされ、そこに博物館法第12条の第一項から第三項にある博物館登録の要件について、廃止または条例委任が盛り込まれたことを知りました。本会では、その内容に対して以下の点から反対をいたします。

博物館法第12条は、同法第2条を遵守するために、登録博物館の審査要件を定めて、法の精神に則った博物館活動の実現や、さらなる発展を図るため最低限守らなければならない基本的事項とその基準とを示しております。

しかしながら、今回の勧告をうけて、博物館登録の第一項から第三項にある要件が廃止または条例委任されるということになれば、博物館法にいう、「国民の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資する」という博物館の本来の目的が損なわれ、博物館の質を全体として低下させる可能性があります。同時に、収蔵資料を充実させ、人的組織や施設を整えることを目指した博物館法の理念もまた失われてしまうものと考えます。

さらに、要件が廃止されることによって、全国的に統一性のある基準がなくなれば、例えば教育基本法第16条に示された、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上という点で、地域的な不均衡を生じかねません。

また、要件を各自治体の条例に委任することになれば、現実的な問題である財政難などを理由として、従来からの博物館機能が安定的に維持できないという状況が生まれ、その結果、貴重な歴史資料や文化財を保存し、その利用・活用の場を提供している博物館自体の活動に大きな支障をきたすこととなります。このことは、文化財保護法第1条に示された、文化財を保存し、その活用を図って国民の文化向上に資するという目的にも反しております。加えて、本会が目指している地方史・地域史研究の進展という面でも、多大な影響をもたらすものと考えます。
以上、今回の第3次勧告に示された博物館法を見直すということは、先述したように博物館法だけではなく、教育基本法や文化財保護法の目的や精神にも反するものであると考えます。
本会は、全国各地域に所在する歴史資料の保存とその活用を進めるという立場から、このたび地方分権改革推進委員会の第3次勧告に示された、博物館法見直しについて反対をいたします。今後、国として責任ある対応をしていただくことを切に要望いたします。