今、国文学研究資料館(国文研)におけるアーカイブズ学研究分野が廃絶の危機にある。 国文研には、50 万点以上の日本近世・近現代史料が所蔵され、これまで多くの研究者が利 用し、歴史学界に計り知れない貢献を果たしている。そのため、日本の歴史学界の学協会で ある日本歴史学協会(日歴協)では、これまで国文研におけるアーカイブズ学(歴史学)分 野の活動を支援し、その役割・機能の拡充を求めてきた。
さて、国文研のアーカイブズ学研究分野では、所蔵史料の保存・公開はもとより、国内外 の史料の調査・研究に努めるとともに、特にアーカイブズの保存・活用を司る専門職の養成・ 研修を目的としたアーカイブズ・カレッジの運営を重要な使命としている。アーカイブズ・ カレッジは、現在 13 大学の大学院によって単位認定され、日本のアーキビスト養成に多大 な貢献をするとともに、全国の史料保存利用機関等における職員の研修にも欠かせない役 割を果たしている。2020 年度に国立公文書館が「認証アーキビスト制度」を発足させたこ とにより、大学院生・民間史料保存機関関係者等、公務員以外を対象に広範な専門職養成を 担うアーカイブズ・カレッジの独自な役割はますます重要になっている。また、自然災害の 多発するなかで、史資料の救済・保全に関する分野における活動の維持も期待されている。 さらに、近年のバチカン図書館所蔵マレガ文書の整理・公開のための活動は、人間文化研究 機構における事業の国際化に大いに寄与している。
このようにアーカイブズ学研究分野の担っている機能は、国文研において極めて重要な ものと位置付けられる。しかしながら、かつて 10 名の定員であったアーカイブズ学研究分 野の教員については、定年退職者等の後任が全く補充されず、減員の一途をたどっている。 このような事態を憂慮した日歴協では、2021 年 4 月の現館長(渡部泰明氏)就任以降、数 度の面談の場を設け、また人間文化研究機構長とも面談した。この間、2022 年 9 月には「国 文学研究資料館におけるアーカイブズ学研究分野の機能維持を求める要望書」を、人間文化 研究機構長・国文研館長宛に送付し、アーカイブズ学研究分野の機能の維持と発展に努める とともに、そのための人的資源の確保を強く要望したところである。しかし、文学分野等の 教員の採用は続いているものの、遺憾ながら日歴協の要望は一顧だにされず、アーカイブズ 学研究分野の教員の減少は続き、現状は4名のみで、4 月からさらなる減員 1 名も予測され る事態となっている。アーカイブズ学(歴史学)研究分野を蔑ろにしたバランスを欠いた人 事と断ぜざるを得ない。
このままではアーカイブズ学研究分野は廃絶しかねず、アーカイブズ・カレッジの存続も 望めない。戦後の史料保存運動のなかで発足した文部省史料館以来、70 年以上にわたって その機能を引き継いでいるアーカイブズ学研究分野の廃絶は、歴史学の基盤である史資料 の保存・管理・利用に重大な支障をきたすことになる。そして、アーカイブズ・カレッジの 廃絶は、日本のアーカイブズ学の発展を阻害するのみならず、内閣府の推進する公文書管理 制度の基盤を崩壊させる事態を招くことになる。
日歴協では、こうした事態に鑑み、各学協会とともに、ここに国文研アーカイブズ学研究 分野が廃絶の危機にあることを広く訴えるとともに、改めて同分野の機能充実と、そのため の人員の確保を強く要望する。
2025(令和 7)年 3 月 1 日
日本歴史学協会
秋田近代史研究会
大阪歴史科学協議会
大阪歴史学会
関東近世史研究会
九州史学研究会
交通史学会
ジェンダー史学会
史学研究会
信濃史学会
首都圏形成史研究会
上智大学史学会
駿台史学会
西洋史研究会
戦国史研究会
専修大学歴史学会
総合女性史学会
千葉歴史学会
地方史研究協議会
中央史学会
朝鮮史研究会幹事会
東海大学史学会
東京歴史科学研究会
東北史学会
東洋史研究会
内陸アジア史学会
奈良歴史研究会
日本アーカイブズ学会
日本アメリカ史学会運営委員会
日本史研究会
日本風俗史学会
白山史学会
福島大学史学会常任委員会
別府大学史学研究会
法政大学史学会
歴史科学協議会理事会・全国委員会
歴史学研究会
歴史教育者協議会常任委員会
(賛同団体、2025 年 4 月 21 日現在)