本会では、鉄道史学会・都市史学会・首都圏形成史研究会・交通史学会の各会長と連名で、会長名を持って、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」)代表取締役あてに、2021年2月22日付「『高輪築堤』遺構の保存・公開の要望」を提出いたしました。「高輪築堤」は、東京都港区に所在する高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発工事現場から発見された、1872 年開業の日本初の鉄道である新橋-横浜間鉄道の貴重な遺構です。地域の文化財として現地保存し、地域資源として活用すべきものであると、要望をいたしました。要望書は、2月25日幹事学会である鉄道史学会が代表してJR東日本の本社で直接提出し、港区や東京都教育委員会などの関係機関へも、JR東日本あて要望書を提出したことを連絡しました。全文は以下の通りです。
PDF版はこちら ⇒ 5学会連名高輪築堤保存要望書
「高輪築堤」遺構の保存・公開の要望
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 深澤祐二様
2021年2月22日
鉄道史学会会長 渡邉恵一
都市史学会会長 伊藤 毅
首都圏形成史研究会会長 上山和雄
地方史研究協議会会長 久保田昌希
交通史学会会長 山本光正
(順不同)
「高輪築堤」遺構の保存・公開の要望
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、このたび貴社の高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発工事現場から、1872年に開業した日本初の鉄道である新橋-横浜間鉄道の「高輪築堤」の遺構が発見されました。私ども5学会は、この築堤が鉄道史・交通史・土木史・産業史はもとより、日本の近代化の幕開けと世界との接点を象徴する日本近代史にとってきわめて重要な文化遺産であると考えます。
私どもは、貴社がいち早く「高輪築堤」遺構の保存・公開をご発表になられたことに敬意を表します。また、そのことが日本の近代史研究に大きなインパクトを与えるものと期待しております。
顧みますと、わが国では1911年に鉄道院総裁後藤新平の指示で鉄道博物館掛を設置して鉄道資料の収集に着手して以来、鉄道資料の保存と活用に積極的な取組みが行われてきました。1921年に鉄道開業50周年を記念して開設された鉄道博物館は、1936年に万世橋駅前に移転し、戦後は交通博物館の名称で多くの人びとに親しまれるとともに、日本の鉄道文化の発展に大きく寄与しました。また、1958年には「鉄道記念物保護基準規程」を定め、歴史的・文化的価値の高い鉄道施設・建造物・車輛・古文書などを鉄道記念物に指定し、保存してきました。
JR各社も、こうした伝統を継承し、とりわけ貴社は2007年に鉄道博物館(さいたま市)を開館するなど、鉄道文化の普及に努めてこられました。「高輪築堤」遺構の保存・公開をいち早く発表されたのも、長い歴史と文化を大切にする伝統を引き継いでいるものと拝察いたします。
近年、産業遺産をはじめとする近代化遺産への関心が高まり、一般の人びとのあいだでも、その歴史的・文化的価値が認識されつつあります。鉄道関係では、「高輪築堤」と同じ新橋-横浜間鉄道の遺構である「旧新橋停車場」が国の史跡に指定されているのをはじめ、旧碓氷峠鉄道施設、旧手宮鉄道施設、門司港駅、梅小路機関車庫などが国の重要文化財に指定され、多くの来訪者を集めております。「高輪築堤」遺構は日本の近代化を象徴する文化遺産であると同時に、東アジア初の鉄道遺構が奇跡的にほぼ完全な形で残っている点でも、世界文化遺産級の文化財であると確信します。わが国における鉄道技術の原点をこの地に永く保存し、広く公開することは、日本の鉄道文化を広く世界に伝えるとともに、観光資源としても国内外からの注目を集めることは間違いないものと思われます。ぜひとも「高輪築堤」遺構を保存・公開し、日本の鉄道文化の発展・継承にいっそう貢献していただきたく、以下の通り要望いたします。
まもなく日本の鉄道は、開業150年を迎えます。この記念すべき年を迎えるにあたり、日本の鉄道開業時の遺構をしっかりと保存していただければ、日本はもとより国際社会における貴社の地位はさらに高まるものと確信しております。
記
要望
「高輪築堤」遺構がきわめて高い文化財的価値を持っていることに鑑み、遺構を現地に保存し、公開してくださるよう要望します。
要望の理由
1.「高輪築堤」遺構は、鉄道黎明期の鉄道建設技術を知るうえで貴重である。お雇い英国人のエドモンド・モレルが指導した鉄道技術を、日本人技術者がどのように消化・吸収したのかを知ることができ、日本の在来土木技術と西洋先進国の土木技術がどのようにして融合したのかを解明することができる。1872年の鉄道創業は東アジアで最も古く、非西欧諸国で最初の自国建設による鉄道であり、日本の近代化のあり方を世界史的な観点からみるうえでも重要である。
2.今回確認された「高輪築堤」遺構は、鉄道創業時の1872年における「海上築堤」のみならず、その後の複線化、3線化、さらには現代にいたるまでの鉄道の変遷をたどることができるという意味で、重層的かつ重要な歴史的価値を有している。このような遺構はほかにはなく、日本の鉄道史を理解するうえできわめて貴重である。
3.「高輪築堤」遺構のなかで、とくに第7橋梁橋台部は遺存度もきわめて良好で、今後同種のものが発見される可能性はほとんどなく、希少性の高いものといえる。したがって、第7橋梁橋台部は、解体・移設せず現地で保存・公開すべき文化財的価値を十分に有しているといえる。
4.「高輪築堤」は明治後期から昭和にかけての埋め立てで姿を消したため、その姿は浮世絵や伝承によって知られるのみで文書類も少ない。しかし、この遺構の発見によって、1872年の単線開業と77年の複線完成時で鉄道建設技術がどのように進歩したのか、また木桁から鉄桁への架け替えで橋台の構造がどのように変化をしたのかを検証できるようになった。日本の土木技術史の観点からもきわめて重要な遺構である。
5.新橋-横浜間鉄道の遺構には「旧新橋停車場」があり、国の史跡に指定されている。また、同鉄道を最初に走った1号機関車、旧新橋駅の0マイルポストなどは鉄道記念物に指定されている。「高輪築堤」遺構も、これらの文化財と同等の価値をもつものであり、文化財の保存と活用をはかるという視点からも、「旧新橋停車場」などと同様に保存・公開されるべきである。
6.海上につくられた「高輪築堤」遺構は、浮世絵版画などの題材として数多く取り上げられているように、当時の人びとにとって「文明開化」の象徴であり、当地域が日本の近代化の最先端地であったことを示すものである。これをもとに、当時の東京湾岸の景観を現代において復元できるなど、都市史・地域史上の貴重な歴史遺産でもある。
以上
なお、本要望書に対するご回答については、後日、下記の幹事学会宛に頂ければ幸いです。 〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台1-7-7
白揚第2ビル2階 日本経済評論社内
鉄道史学会
会長 渡邉恵一
e-mail:tetsudoshigakkai@nikkeihyo.co.jp