文化財保護法改定に対する要望書

本会では2018年2月25日付で、会長名をもって、安倍晋三内閣総理大臣をはじめ、衆参両院議長、内閣官房長官、総務大臣、経済産業大臣、文部科学大臣、文化庁長官、文部科学省事務次官、文部科学省大臣官房長、衆議院文部科学委員会全委員、参議院文教科学委員会全委員に対し「文化財保護法改定に対する要望書」を送付いたしました。あわせて、その「要望書」を関係諸機関にも送付いたしました。以下は、「要望書」の全文です(各方面に送付した「要望書」は同内容のものですが、以下、安部晋三内閣総理大臣宛のものを掲載いたします)。

2018年2月25日

内閣総理大臣 安倍 晋三 様

地方史研究協議会
会長 廣瀬 良弘

文化財保護法改定に対する要望書

私たち地方史研究協議会は、1950(昭和25)年に全国の地方史研究者及び地方史研究団体の連絡機関たる学会として発足しました。以降、各地の地方史研究者が交流して学術研究を深められるよう、歴史資料の保存利用や地方史研究の環境整備をめざすという運動方針のもと、活動を進めてきました。
さて、昨年8月、「文化審議会文化財分科会企画調査会中間まとめ」が公表されて以降、わずかな期間の検討で、12月8日に、文化庁から「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」(以下「第一次答申」)が発表されました。これにもとづく文化財保護法改定案が、「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案」として現在開会中の第196回国会に提出されるとうかがいました。
「第一次答申」に示された内容は、文化財を「経済の振興」の核として「活用」を推進することにあります。公共財である文化財について経済的利益のみを優先し、文化財の保存がないがしろにされて、文化財の「活用」が進められ、「活用」の名のもと文化財の破壊が進んでいく危険性が危惧されます。この点は、本第196回国会冒頭における安倍首相の施政方針演説でも、文化財の保存には全くふれずに、今回の文化財保護法改定の意図が、「観光資源」としての「文化財の活用を促進」するものであると強調していたことからも明らかです。
また、国(文化庁)から市区町村へ文化財の管理を移譲し、市区町村においては、文化財保護の所管を教育委員会から首長部局への移管を可能とするとしています。首長部局への移管にあたっては、保存を担保するべく、必ず地方文化財保護審議会を設置することを制度上明確化することや、専門的職員の配置を促進し、専門的・技術的判断の確保などの整備の必要性が記されています。しかし、現場において文化財保存に対する学術的判断の確保が現実的にできるのか疑問です。文化財の保存よりも経済的利益を優先し、文化財を消費する「活用」が推進されるのではないでしょうか。さらには、経済的に利益が見込まれない文化財は顧みられず、切り捨てられるような方向に進んでいく可能性があり、指定外の文化財の喪失が進む危険性があります。
市町村が策定する地域計画の実現に向けて文化財の保存と「活用」を指定団体に委託できることも示されています。しかし、専門的職員の配置が必ずしも十分ではない市町村も多いのが現実です。委託された指定団体により行われる保存への懸念が生じた際に、市町村は適切な指導を迅速に行えるのか疑問です。
本会は、上記のような危惧を抱いた「第一次答申」にもとづいてなされる文化財保護法改定にあたり、次のことに配慮した法案審議を要望いたします。

1.何より国宝をはじめとする文化財は、先人たちが守り、大切に保存してきたものであり、我が国共有の公共財産です。公共財である文化財はその保存がまずなされた上で「活用」を進めるべきです。後の世代に伝えていくことも考えた保存を重視した法改定とすることを求めます。

2.地域の文化財の保存と「活用」は、地域特性をふまえた学術的見地からの調査・研究があって実現されるものです。それらを行える専門職員(学芸員・専門員など)の適正な配置を必ず行うことをはかるような法改定とすることを求めます。

3.学芸員・専門員などの専門職員が、文化財保護行政において、文化財の保存に関して学術的見地にもとづく適正な役割を制度的に発揮できる体制、組織づくりを進められるような法改定とすること。間違っても、指定外の文化財を経済的尺度のみで安易に捨象したり、毀損しないような措置を講ずることを求めます。

本会は、全国各地に所在する文化財や歴史資料の保存措置を第一に講じ、その上で、「活用」を進めるべきであると考えます。文化財は、目先の経済的利益だけを優先し「活用」して消費させてしまうものではなく、子孫に伝えていくべきものです。経済的効果を期待するあまり、かけがえのない文化財を消耗するような「活用」を進めうる法改定の方向性を見直し、文化財保護の本来の理念に立ち返って、文化財保護の今後の在り方を見据えて十分な審議がなされることを強く要望いたします。

PDF版はこちら→文化財保護法改定に対する要望書