鎌倉円覚寺西側結界遺構の保存推進に関わる要望書

本会では2018年8月19日付で、会長名をもって、宮田亮平文化庁長官、黒岩祐治神奈川県知事、松尾崇鎌倉市長に対し「鎌倉円覚寺西側結界遺構の保存推進に関わる要望書」を送付しました。あわせて、その「要望書」を本会ホームページでも公表するとともに、関係諸機関にも送付しました。以下は、「要望書」の全文です。
2018年8月19日
文化庁長官  宮田 亮平様
神奈川県知事 黒岩 祐治様
鎌倉市長   松尾 崇 様
地方史研究協議会
会長 廣瀬 良弘
鎌倉円覚寺西側結界遺構の保存推進に関わる要望書
 私たち地方史研究協議会は、1950(昭和25)年に全国の地方史研究者及び地方史研究団体の連絡機関である学会として発足しました。以降、各地の地方史研究者が交流して学問研究を深められるよう、歴史資料の保存利用や地方史研究の環境整備をめざすという運動方針のもと、活動を進めてきました。
なかでも地域の歴史を伝える資料や文化財、歴史的景観等の保存に関しては重要な運動のひとつとして捉え、積極的な取り組みを進めてまいりました。 さて、JR横須賀線北鎌倉駅に近接する岩塊は、中世都市鎌倉を代表する古刹の一つ、円覚寺の西側結界遺構であり、中世鎌倉の景観を良く保持し、考古学的観点からも文献史学的観点からも極めて重要な遺構であることは周知のことであると存じます。
以前、同遺構の破壊・開削工事計画が進められていたことに対し、2016年5月、文化庁からの計画見直し勧告があり、鎌倉市民や本会をはじめ関係諸学会の保存運動なども行われました。そうした状況のなか、鎌倉市文化財専門委員会での検討を受け、松尾鎌倉市長は2016年、岩塊トンネル(北鎌倉隧道)部分も含む同遺構を保存する方針に転換することを表明しました。そして翌年に剥落が進む岩塊トンネル部分の市民通行の安全性確保とあわせて同遺構の保存をはかるための仮設工事をまず行うとする方向性が示されました。同遺構を国指定史跡として追加指定する方向性が示されるとともに、2017年度には保存工事方法の検討も行われました。同年6月の鎌倉市議会では鎌倉市長から仮設工事を同年8月に着工するとの説明もありました。しかしながら、現在に至るまで仮設工事は着工されず、さらに保存工事計画も定まらないため、同遺構は岩塊トンネル部分で剥落が進み、自然崩壊する恐れもあります。そのため、地域住民が、同遺構の史跡としての保存や景観保全の推進を通行の安全性確保とともに強く求める動きもますます顕著になってきています。こうした市民要求の背景には、中世鎌倉の景観を伝える同遺構が、地域住民にとって長年にわたり親しまれ、鎌倉らしさを育んできたシンボル的存在となっていることが考えられます。同遺構は、学術的に極めて重要であるとともに、鎌倉市のまちづくりにおいても大いに活かせるものと思われます。市民共有の財産である同遺構が失われるようなことになれば、取り返しがつきません。

そこで、本会では地方史研究の立場より、次のことについて要望をいたします。

1.鎌倉円覚寺西側結界遺構の学術的・文化的価値の保存をはかる本設工事方針のすみやかなる策定を行い、その工事推進を急ぐこと。
2.保存工事方針の策定、本設工事の着工がなされるまで、現在、剥落が進む現状にある鎌倉円覚寺西側結界遺構の岩塊トンネル(北鎌倉隧道)部分に対し、早急にトンネル内部を囲むなどの保護施工を行い、その自然崩壊を防ぐこと。
3.関係官庁、自治体、諸機関、関係者などとの調整をはかり、同遺構が国指定史跡に追加指定されるよう努めること。
4.現地説明会や集会などを通して、同遺構が学術的にも地域の歴史を伝えるうえでも極めて重要な遺構であることとともに、一方で現在、自然崩壊の危険性があることを市民や地方史研究者に対して伝え、地域一体となった保存を推進するように努めること。

PDF版はこちら